これまで、さまざまな平和活動や社会課題に取り組んできたピースボート。
そのピースボートが今回、ひとつのプロジェクトとして活動を立ち上げるのではなく、新たな法人を設立しました。
「なぜ、わざわざ別の法人をつくる必要があったのか?」
今回は、イベント実行委員長であり一般社団法人まちづくりピースボート代表理事を務める"KID”こと上野大さんに、改めてその理由を聞きました。
「ピースボートの一環」ではなく、高田馬場で本気で場をつくる
一番大きかったのは、「ピースボート=地球一周の船旅」というクルーズのイメージから切り離して「本気で、陸で場づくりをしていく」ということを伝えるためでした。
「今回のイベントを開催すると決まってから、いろんな学校や地域団体に挨拶に行ったときなんだけど、イベント趣旨には共感してもらえたけれど、その後の連絡が繋がらなくなっちゃったケースもあったんだよね。」
理由ははっきりと分からないものの、「片手間なんでしょ」と思われているのかもしれないと考えたとき、「やっぱり別団体(ピースボートと付かない)を立ち上げた方がよいのかなと思った」とKIDは言います。
気づけば設立から40年以上経ち、ポスターも「まちの風景」と言われるほどに知名度があがってきたピースボート。しかし、ピースボートを早稲田大学の学生が立ち上げたということや、当時の活動をよく知る地元の人にとっては、地域に根差した活動をしている団体というよりは、ちょっと変わったクルーズ旅行をやっているところ、国内外の社会問題に対していろいろな活動をしているところ、とみられてきたのかもしれません。
そんなピースボートと一緒に「地域の場づくり」をすると言われても、少し違和感を感じるのは言うまでもありません。
だからこそ、あえて別の法人にする。
それは、ピースボートという既存の枠組みから一歩外に出て、新しい人たちや団体と関係をつくっていくためでもありました。
それでも「ピースボート」の名前を残した理由
では別法人にするなら、なぜ団体名に”ピースボート”を残したのでしょうか。
実は、法人名を決めるときにも、”ピースボート”という名前を付けるかどうかは議論になりました。
団体名に「ピースボート」を残せば、これまでのピースボートのイメージもそのままついてきます。一方で、これまでピースボートが船の上で培ってきた「多文化共生」の経験を、これからの活動に生かしていくのであれば、完全に切り離してしまうのも不自然です。
どんな団体名にするとしても受け止め方は人それぞれ。最終的には「ピースボート」を団体名に入れることになりました。
実際に準備を進めていくにつれて、KIDは「ピースボート」という名前を残したからこそのメリットを感じるようになったそうです。
まず1つ目は「なぜ新しい法人をつくったのか」という背景を説明しやすいこと。
そして2つ目は、ピースボートの仲間たちに協力をあおぎやすいということでした。
さまざまな団体へ法人立ち上げの挨拶回りや、イベントのための物品レンタルの相談に行ったとき、予想よりも多くの人がピースボートを知っており、ネガティブな印象をもっている方はほとんどおらず、応援や協力をしてくれたのを実感したKID。
「ここまでポジティブに協力してくれるとは思っていなくて、こちらが驚いたくらい。もし、まったく違う団体名にしていたら、ここまでのご協力やご支援をいただけてなかったかも。」
「また、ジャパングレイスの社員の方、ピースボート災害支援センターのみなさん、ピースボートのボランティアスタッフやインターンの方など、たくさんの方が協力してくれたのは本当にうれしかったし、正直驚きました。団体名にピースボートを残して良かったな、と思いました。」
別法人だからといって、これまでのピースボートとしてのつながりを断ち切るわけではなく、むしろ、これまでの経験や関係を土台にしながら、新しい場所へ踏み出す。
それが今回の法人設立だったのです。
法人をつくって、イベントを開催したその先は・・・。
今は10/3のOMATSURIに向けて準備を進めている実行委員たち。その後のビジョンはどんなものを描いているのでしょうか。
「実は『いつまでに何をするのか』という具体的な事業計画を立ててみたものの、どうもしっくりこなかった。一方で、『こんな場をつくりたい』というイメージは、はっきりしている」と話すKID。
今回のまちづくりを進める中で、さまざまな団体の取り組みを調べたところ、いろんな活動を知ったそうです。
その中でも印象的だったのが、福岡県北九州市でホームレス支援を長年行う、団体の取り組みです。
その団体は、反社会的勢力の本部があった土地を取得して、1階を誰でも使える共有スペースに。そして2階以上を、その日に泊まる場所がなく困っている人が泊まれる宿泊施設やコワーキングスペースなどにしています。
この事例から感じたのは、「見えないようにする」のではなく、「見えるようにする」ことの大切さです。
過去の歴史を振り返ると、国や集団、一個人などにとって関心が低いものや都合の悪いものを社会から見えないように隔離した結果、暴力などの非人道的な行為が促進され、制度や仕組みから抜け、存在自体が無いものにされてきました。当時の状況や背景に違いはあれど、見えないように隔離するというのは、構造上その仕組みを生み出すのと同じだと考えられます。
また、困っている人を見えない場所に分けてしまえば、その人が困っていること自体に気づけなくなってしまいます。だからこそ、困っている人が見える環境をつくり「困っている」「助けて」と言える場をつくりたい。
在日外国人、ひとり親世帯やホームレス、介護を必要とする人とそのご家族、障がい者とそのご家族、LGBTQ、アルコール依存症、他にも例をあげればキリがありませんが、いわゆる多数派(マジョリティ)ではない、現状の制度や仕組みでは、本当に必要なサポートが行き届かない、届けにくい人たち。
そうした人たちを「支援する側・される側」と分けるのではなく、地域の中でともに生きていけるようにしたい。
「ピースボートは船で多国籍の人たちに目を向けるようになった。けれどそれはきっかけの1つであって、いろんな人が混ざりあう場所やコミュニティをつくりたい」
そのために、法人という新しい器をつくりました。
「正解のある活動」ではないからこそ
もちろん、こうした場づくりに決まった正解があるわけではありません。
だからこそ、最初から「これをやる」と決めきるのではなく、これから出会う仲間たちと相談しながら、自分たちにできる方法を探していきたいと考えています。
今回の法人設立は、何かを完成させるためのゴールではありません。
ピースボートがこれまで船の上で培ってきた経験を、今度は陸へ。
改めて考えてみると、「なぜ法人をつくったのか」という問いの答えは、法人という形そのものにあるのではありません。
新しい関係をつくり、新しい場をつくる。そのために、これまでとは違う一歩を踏み出す必要があったのです。
今回の法人設立には、そんな強い意思が込められています。